三菱UFJアセットマネジメント
インデックス運用部長
荻野 太陽さん
日本最大の純資産総額を誇る投資信託(ETFを除く)である「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」や、「オルカン」の愛称で知られる「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」などを擁するeMAXIS Slimシリーズは、日本のインデックスファンドの代名詞的な存在になっています。インデックスファンドによる積立投資が日本に根付いたのも、同シリーズがあったからだとさえ言えるのかもしれません。
ソニー銀行では、eMAXIS Slimシリーズの取扱を10月17日から開始しています。そこで、その運用をチームで担う、三菱UFJアセットマネジメントのインデックス運用部を率いる荻野太陽部長に、同シリーズが投資家に支持されてきた理由、さらにはあまり知られていない真の実力などをうかがいました。
eMAXIS Slimシリーズは「投資家と一緒に作った」投資信託
いま日本で最大の純資産総額を誇る投資信託は「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」で、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)<愛称:オルカン>」が続いています(2025年10月時点、ETFを除く)。eMAXIS Slimシリーズ全体でも、投資信託の規模を表す純資産残高がこの10月に20兆円を突破するなど、今や日本の投資信託を代表する存在になったと言ってもいいでしょう。なぜここまで多くの人の支持を得られたと考えていますか。
荻野 一番の理由は、「業界最低水準の運用コストを、将来にわたって目指し続ける」と明言したことにあるのでしょう。事実、これまでも他社の動向を見ながら複数回、運用管理費用(信託報酬)の引下を行なってきました。eMAXIS Slimさえ持っていれば、常に最低水準のコストで運用を続けられるという安心感は、やはり大きいと思います。

当然のことながら、コストというのはそれだけ重要なわけですね。
荻野 はい。資産形成で重要なのは継続することですから、その観点でもコストは最大のポイントだと思います。
それに加えて、お客さまと対話を繰り返してきた点も、ご支持をいただけた理由ではないでしょうか。投資家の皆さまに直接お目にかかったり、リモートでコミュニケーションしたりできる「eMAXISファンミーティング」「ブロガーミーティング」などを継続的に開催してきたのをはじめ、お客さまの声を取入れながら、いわば一緒になって新たなコンセプトの投資信託を作ってきたのです。
実際に、そうした声を受けてラインアップを追加したこともありますし、「投資信託の世界を変えていきたい」という使命感を共有していただいてきたかたも少なくありません。お客さまの「想い」とともにファンドも成長し、さらに2024年の新NISAのスタートも追い風となり、ここまでたどり着いたという感覚でしょうか。
それまでの運用会社は、投資家の皆さんと直接かかわることはあまりなかったかもしれません。
荻野 そうですね。その意味でもブロガーミーティングは画期的だったのでしょう。特に私たち運用者はお客さまの声を聞く機会はほとんどありませんでしたから、本当に貴重な経験になっています。
パフォーマンスでもナンバー1を目指すというこだわり
その他、eMAXIS Slimシリーズの強みはどこにあるのでしょう。
荻野 運用者の立場で言えば、やはりコストの低さ以外のところにも注目してもらいたいですね。というのも、類似のインデックスファンドの中でトップのパフォーマンスをあげることを目指してきて、ある程度は実現できていると自負しているからです。
ただ、インデックス運用というのは指数との連動を目指すわけですから、単にリターンが上がればいいというものでもありませんね。ここで言うパフォーマンスとは、どんな意味なのでしょう。
荻野 おっしゃる通りで、インデックスファンドがまず目指さなくてはいけないのは、指数との連動です。これは簡単そうに見えるかもしれませんが、実はかなりの技術が必要になります。お客さまからの設定・解約のお申込みや指数情報の変更に対応しながら、構成比率を維持するには、高度な運用ノウハウが求められるのです。
さらに、どんなに低くても信託報酬などのコストは必ずかかりますから、単に指数と同じ動きをすることだけを目指していたら、コストの分だけ負けてしまう。ですから私たちとしては、たとえわずかな水準であっても指数に勝つことを目指しているわけです。極力リスクを抑えて、ほんの少しずつでも勝つ。私たちがこだわるパフォーマンスとはそれであり、実現のための努力は常に欠かせません。
とはいえ、その差は投資家の皆さまにとってはほとんど目に見えないくらいのものかもしれません。それでも運用者としては、eMAXIS Slimは単にコストが低いだけではなく、そうしたこだわりを持って運用している質の高いファンドだという事実を、ぜひ知っていただきたいですね。

そのわずかな差を生み出すために、具体的にはどんな工夫をされているのでしょう。
荻野 一例をあげると、株価指数への連動を目指すファンドであれば実際に株式を売買する必要がありますが、そこにかかる手数料を極限まで抑えるというのがわかりやすいかもしれません。あるいは、指数には構成銘柄の入れ替えがしばしばあるため、ファンドでも銘柄を入れ替える必要があります。その売買のタイミングによっても、差が出てくる場合があるのです。他にもさまざまな工夫がありますが、企業秘密になりますので、どうかこのへんでご容赦ください(笑)。
今は多くの人がインデックスファンドで長期、積立投資を実践しています。そうした細かな工夫によって生まれたわずかな差が、長期では大きな差となる可能性もあるわけですね。
荻野 その通りです。少しの差でも積み重なっていけば5年後、10年後には明らかな差となります。だからこそ、私たちは残高の大きさやコストの低さだけではなく、パフォーマンスでも類似ファンドの中でナンバー1であることを目指しているわけです。
インデックス運用には機械的に行われているといったイメージもありますが、やはり簡単なものではないということですね。特にどんな点にご苦労されているのでしょうか。
荻野 おそらく皆さまが思われている以上に日々のオペレーションは大変で、繰り返しとなりますが、お客さまの設定・解約が日々ある中で指数と連動させることは簡単ではありません。たとえ全体の0.5%でも現金のままにしておくと指数と連動しなくなってしまいますから、毎日、売ったり買ったりを繰り返さなければならないのです。また、「オルカン」のように多くの国に投資しているファンドでは、それぞれの国の規制などにも注意を払う必要があります。
もちろん、そうしたノウハウはチームで共有していますし、一方で、システマチックにできる部分はなるべく人の手を介さないようにするなど、極力ミスをなくす努力も続けています。システム化を進めつつ、付加価値をつけられるところではきめ細かい工夫を凝らしているというイメージでしょうか。
規模の大きさはインデックスファンドのメリットになる
ところで、ここまで残高が大きくなると、「今から買っても遅いのでは......」と躊躇する投資家がいないとも限りません。残高が大きいことによるデメリット、あるいはメリットがあればうかがえますか。
荻野 指数への連動を目指すインデックスファンドにとっては、規模の大きさによるメリットのほうが多いと言えるでしょう。指数には多くの銘柄が組入れられていますが、ファンドの規模が小さいとこれらすべての銘柄を指数通りの比率で組入れることが難しく、トラッキング・エラーと呼ばれる指数との乖離も出やすくなります。
また、同じ1億円の売買をするにしても、その手数料の影響は100億円のファンドと1兆円のファンドとでは全く異なります。当然、大きなファンドほどその影響は小さくなる。eMAXIS Slimはこれだけ規模が大きくなったからこそ、単に指数への連動を目指すだけではなく、その先の付加価値を狙えるという面もあるのです。
一方であえてデメリットをあげれば、あまりに残高が大きくなりすぎると、自分たちの売買によって市場を動かしかねない点が考えられます。ただ、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」にしても「オルカン」にしても、その参照指数の市場は巨大ですから、まだまだ心配するような水準ではありません。ですから、これからeMAXIS Slimを購入されようとしているかたには、安心してほしいとお伝えしたいですね。

資産形成に興味はあっても、なかなか第一歩を踏み出せないという人は、いまだに少なくないようです。最後にそうした方々に向けて、アドバイスをいただけますか。
荻野 私自身、「若い時にもっと投資しておけば良かった」と後悔することが少なくありません。たとえ少額であっても少しでも早く、そして少しでも長く投資を続けていれば、いずれ自分自身に感謝する日が訪れるはずです。
上がったり下がったりを繰り返しながらも、気が付いたらいつの間にか増えていた。そんな投資の効果を体感していただくことが、一番の早道なのでしょう。後になって後悔しないためにも、まずは第一歩を踏み出し、何よりも投資を続けていただきたいですね。私自身も、一投資家として「オルカン」を保有し続けています。
資産形成は少しでも早く始め、少しでも長く続けることが大切なわけですね。本日はありがとうございました。
インタビュー・文:金融エディター 菊地 敏明
(参考ファンド)
eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)<愛称:オルカン>
