なかのアセットマネジメント
チーフポートフォリオマネージャー
山本 潤さん
2023年9月、「つみたて王子」の異名でも知られる中野晴啓さんが新会社「なかのアセットマネジメント」を設立し、大きな話題となりました。翌2024年4月には2本のアクティブファンドが設定され、こちらも多くの投資家から注目されましたが、そのうちの1本が「なかの日本成長ファンド」。2025年10月からは、ソニー銀行でも購入できるようになりました。
そこで、「なかの日本成長ファンド」はどんなコンセプトのもとに設定され、特徴や強みはどこにあるのか。足元のパフォーマンスと今後の見通しをどう捉えているのか。チーフポートフォリオマネージャーを務める山本潤さんに、さまざまな角度からお話を伺いました。
利益成長を続ける「クオリティ・グロース企業」を見極める
山本さんは外資系の投資顧問会社やヘッジファンドなどで30年近い運用経験があり、現在は「なかの日本成長ファンド」のチーフポートフォリオマネージャーを務められています。同ファンドはなかのアセットマネジメントにとって最初の商品のひとつですから、設定までにはいろいろとご苦労もあったのではないでしょうか。
山本 そうですね、このファンドは私自身の新たなチャレンジでもありました。いま日本は「資産運用立国」を掲げ、金融庁も「資産運用の高度化」を打ち出していますが、その実現に挑戦したいという気持ちがあったのです。
そこでまずは体制づくりから始め、試行錯誤を続けながら、ようやく落ち着いてきたといえるでしょう。ファンドのテーマのひとつであるエンゲージメントに関しても、企業にさまざまな提案ができるようになり、手ごたえを感じているところです。

それでは改めて、「なかの日本成長ファンド」のコンセプト、特徴などを教えてください。
山本 主なテーマは2つあり、ひとつが先ほどのエンゲージメントで、もうひとつが「クオリティ・グロース」という投資スタイルです。これは着実な利益成長を続けていて、なおかつ今後もそれが持続する確度が高い企業を厳選し、投資を行う手法のこと。そうした企業は「クオリティ・グロース企業」と呼ばれていますが、私たちが特に重視しているのはROEという指標です。ROEは「自己資本利益率」ともいわれ、株主が出資した資金を元手に、企業がどれだけ利益をあげたのかを示すものです。要はこの数字が高いほど、企業は効率よく稼いでいることになります。
つまりクオリティ・グロース企業とは、この高いROEを維持し続ける企業なのです。そうした企業は自らの稼ぐ力によって利益を内部で再投資に回すことができ、それが長期であればあるほど「複利効果」によって飛躍的な成長を遂げられます。個人投資家の皆さまの長期・積立投資には、とりわけフィットする投資スタイルだといえるでしょう。
とはいえ、そうしたクオリティ・グロース企業を見極めるのは、簡単ではないのでしょうね。どんな点に着目して投資先銘柄を選択するのでしょうか。
山本 注目しているもののひとつが、マーケットシェアです。それぞれの分野で圧倒的なシェアを持っていれば値上げなどがしやすく、スケールメリットも大きくなります。自ずと売り上げに対する営業利益の比率、営業利益率も高くなり、長期的に成長できるのです。事実、株式時価総額の上位銘柄とTOPIXのROEの平均を比べてみると、上位銘柄のほうが高く、過去の推移を見てもそのブレが小さくなっています。上位銘柄の中には、マーケットシェアの高い企業が多いのはいうまでもありません。
もうひとつ重要なのがコーポレートガバナンス(企業統治)です。ガバナンスが効いていないと、例えば会長の鶴の一声で成長が見込めない事業を買収してしまうといったケースもあったりする。ですから、過去のキャッシュフローを検証し、利益をどう配分しているのかをしっかり見極める必要があります。そこが不明確な企業はいずれROEが下がり、株価も下がるという悪循環に陥ってしまうのです。
いくらROEが高くても、その使い道、再投資がうまく機能しなければ、先ほどの複利効果も望めないわけですね。
山本 おっしゃる通りで、利益の使い道を誤ってしまえば元も子もありません。そこで重要になるのが、もうひとつのテーマであるエンゲージメントなのです。
企業と対話し提案を行う「エンゲージメント」の重要性
エンゲージメントとは、投資の世界では「対話」と訳されることが多いようですね。
山本 まさに「利益を変なことに使ってはだめですよ」と提言したり、冒頭にも申し上げたようなさまざまな提案をしたりと、企業と対話していくわけです。当ファンドではクオリティ・グロース企業を見定めるのが重要である一方、どうしても予期せぬ事態は起こってしまうもの。そうした際に、対話を通じてショックを和らげる役割を果たすのも、エンゲージメントだといえるでしょう。
ただし、高いROEを維持し、そのうえでエンゲージメントも行えるような企業はそれほど多くありません。日本においてはせいぜい150社くらいで、その中からさらに30社程度にまで厳選して投資するのが「なかの日本成長ファンド」です。
企業に提言する投資家というと、いわゆる「アクティビスト」、物言う株主というイメージがあります。
山本 アクティビストの中には企業に敵対的な姿勢をとるところもあるものの、私たちの場合は企業を応援したいという想いのほうが強い。いわば友好的な応援団だと捉えていただきたいですね。まずはそれぞれの企業が取組んでいることをしっかり理解し、それをベースにしながら「もっとこんなふうにできないか」と、合理的な提案をするよう心掛けています。

具体的には、どんな提案を行うのですか。
山本 例えば、薬品メーカーのツムラが将来の設備投資に関して発表したところ、株価が下落してしまったという事例がありました。それは具体的な計画にまで至っていない設備投資も含めた発表だったため、「説明不足だったのではありませんか」と指摘したところ、すぐに設備投資に関する説明会を開催してくれました。結果として、株価が持ち直すきっかけになったのです。
あるいは、空調機器で知られるダイキン工業の事例もあります。同社は海外でのM&Aなども積極的に行っているにもかかわらず、IFRS(国際会計基準)を採用していなかった。そこで、「海外でM&Aを行う以上、やはりIFRSを採用すべきでは」と提案し、「現在は事業のテコ入れを最優先しており、コストもかかるため優先順位としては後回しになっていますが、中期的には採用する方向である」という回答をもらうことができました。
そうした投資先企業の人をゲストに招いた、投資家向けのセミナーなども定期的に開催されています。
山本 長期・積立投資が根付いたこともあり、企業にとって個人投資家の開拓、関係性の強化は重要な課題になっています。そうしたセミナーで投資家との接点をつくることで、企業のかたにも喜んでいただけるのです。
個人投資家にとっても、投資先企業の顔が見えることで長期投資につながるという利点があるのかもしれませんね。
AIの進展で間もなく訪れる「アクティブファンドの時代」
次にパフォーマンスについても伺います。足元ではかなり改善しているものの、設定来で見るとTOPIXを下回る時期が続いていたようですが......。
山本 そうですね。これはタイミングの問題でもあり、特に設定直後はTOPIXが大きく上昇していた時期で、出遅れてしまったのは事実です。ただ、もともとクオリティ・グロース企業というのは業績のブレが小さい反面、指数の上昇局面では株価がそれに付いていきにくいという特性があります。ここ数年は基本的に上昇局面が続いていましたから、クオリティ・グロース企業にとって厳しい環境だったのは否めません。
もっとも、何らかのショックで大きく下落するような局面では指数を上回る可能性が高く、それが長期で積み重なって複利効果を生むわけです。事実、10年単位で見ればクオリティ・グロース企業の株価の上昇率は指数を大きく上回っています。これは日本の企業に限った話ではなく、世界的に見られる傾向です。その点、当ファンドは設定からまだ2年弱ですから、複利効果が効いてくるにはもう少し時間がかかると考えています。ぜひ、今後にご期待いただきたいですね。

ところで、近年はインデックスファンドの隆盛が続いてきましたが、アクティブファンドを持つ意義についてはどう考えていますか。
山本 確かに足元ではインデックスファンドが人気を集めていますが、近いうちにアクティブファンドの時代が訪れると私は考えています。というのも、これだけ急速にAIが発展している中、AIとアクティブ運用というのは非常に相性がいいのです。例えばリサーチの質なども、AIを用いることで格段に向上しています。
あるいは、クオンツ運用と呼ばれる一定のロジックに基づいたシステマチックな運用手法があり、その精度もAIによって高まっています。しかし、いくら理論的には正しくても、想定外の事態でズレが生じることもある。だからこそ、私たち運用者が企業としっかり意思疎通しながら、モデルを補正していく必要があるのです。AIに人の手が加わることで、アクティブ運用の強みがより発揮されやすい時代になっていくでしょう。何しろAIは夜中でもリサーチしてくれますし、働かせすぎて辞めてしまうといったこともありませんからね(笑)。
最後に、資産形成になかなか踏み出せないという人たちに向けて、アドバイスをいただけますか。
山本 現在は預金金利も上昇していますが、それでもインフレを上回るまでにはなっていません。それに対して株式であれば、配当利回りだけでも平均で2%程度は期待でき、しかもNISAを活用すれば課税されません。そこにキャピタルゲイン(売買差益)が加わるわけですから、トータルリターンで考えても、預金よりもはるかに有利だといえるのではないでしょうか。
もちろん投資である以上、特に短期で見れば損失を被ることもあるでしょう。その点、繰り返しとなりますが、当ファンドは複利効果によって長期であればあるほど真価を発揮しやすいファンドであるのは間違いありません。「なかの日本成長ファンド」で投資への第一歩を踏み出し、長期で保有していただければ、ご期待に沿えられると確信しています。
本日はありがとうございました。
インタビュー・文:金融エディター 菊地敏明
菊地敏明(きくち としあき)

インタビュー・文:金融エディター 菊地敏明
菊地敏明(きくち としあき)
金融エディター
1969年生まれ。1993年に学習院大学を卒業後、月刊総合誌、ビジネス書などの編集に携わる。2007年に株式会社想研入社。同社が発行する金融情報誌『Ma-Do』で資産運用ビジネスの情報を取扱い、銀行や証券会社、運用会社などの取材も数多く手がける。長らく同誌編集長を務め、2019年には執行役員に就任。現在は『Ma-Do』特任シニアエディターを務める傍ら、さまざまな金融コンテンツの作成に携わる。著書に『銀行ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)がある。